安田理央の日本風俗私史<夜遊昭和レトロ巡り>第4回〝乱〟グループ崩壊後の風俗業界

アダルトメディア研究家安田理央が風俗の歴史と自分史を振り返るシリーズ。少し昭和もあったり平成メインで令和もあったりなかったり⁉ 第四回は大手グループ『乱』の突然の閉店劇と、それでも拡大を続ける平成風俗。雑誌やAVなどメディアとの結びつきが強まっていく時代を振り返ります。

安田理央の日本風俗私史<夜遊昭和レトロ巡り>第4回〝乱〟グループ崩壊後の風俗業界

目次
  1. 平成風俗最大手「乱」グループの突然の終焉とその影響
  2. 風俗文化とともに広がるメディアの隆盛
  3. 風俗AVブームの到来と『THE フーゾク』の衝撃
大手『乱』グループの突然の閉店が風俗業界を揺るがすも、平成風俗は失速することなく拡大。風俗嬢が出演するリアル志向の風俗AVが一大ブームとなり、雑誌や映像メディアとの連動で“平成風俗文化”が加速していきます。

平成風俗最大手「乱」グループの突然の終焉とその影響

 1995年は、阪神大震災や地下鉄サリン事件など、日本を揺るがすような大事件が次々と起きた年でしたが、その7月に風俗業界にも大きな事件が起きていたのです。
 イメージクラブや性感ヘルスなどのいわゆる平成風俗店は、風営法の許可を取っていない「モグリ営業」の店が多かったため、警察の手入れが入って営業停止となることは珍しくありませんでした。
 しかし多くの場合は、数日後には店名を変えて何食わぬ顔で営業を再開するのが定番のパターンでした。そのため、この頃に平成風俗店はコロコロと店名が変わっていたのです。
 ところが今回は様子が違いました。都内に20店舗以上を展開していた平成風俗の最大手である『乱』グループの全店が突然、閉店していつまでも営業を再開しなかったのです。
 派手にマスコミ展開をしていたグループだから警察に狙い撃ちされた、国税局が動いた、ケツモチのヤクザとのトラブル……などと、様々な噂が流れましたが、その真相はわかりませんでした。
 それでも、『乱』グループで働いていた女の子たちは、すぐに他店へ移籍してきましたし、しばらくするとスタッフたちも他の店を始めたりしていました。
 低料金で濃厚サービス、女の子のレベルの高さ、マスコミへの露出の多さなど、『乱』グループが築いた平成風俗のスタイルは、すっかり定着し、他の店にも受け継がれて行きました。
 結局のところ、風俗ユーザーにとっては、この一斉摘発騒ぎは、あまり影響はなかったのです。最大手グループの消滅によって、平成風俗ブームは失速することはなく、さらに大きな広がりを見せていったのです。
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風俗店で取材する当時の筆者

取材写真から①

風俗文化とともに広がるメディアの隆盛

 風俗雑誌が勢いづいたのもこの頃でした。1986年創刊の『シティプレス』(東京三世社)『ナイタイマガジン』(創刊時は『ナイトマガジン』 ナイタイ)に加えて、『夜遊び隊』(メディアックス)、『MAN-ZOKU』(笠倉出版社)、『ヤンナイ』(大橋書店)『ナイトウォーカー』(サン出版)と言った雑誌が創刊されていきました。
 こうした雑誌で風俗嬢をグラビアアイドルのように扱うことで、お店も活況を見せ、風俗業界が盛り上がることで、風俗雑誌も更に売れる、という状況が生まれます。
 この頃の筆者は、フリーライターとして風俗関係の仕事が多かったのですが、風俗専門誌は一時期に『ヤンナイ』で連載をしていたくらいで、あまり縁がなく、主に『スコラ』のような一般誌や実話誌などの風俗コーナーを担当していました。風俗専門誌以外でも、風俗情報は引っ張りだこだったんですね。

取材写真から②

風俗AVブームの到来と『THE フーゾク』の衝撃

 もうひとつ、風俗を積極的に扱ったメディアとしてはAVもありました。
 ソープランドのテクニックに迫った『全国特殊浴場秘技公開シリーズ』(アリスJAPAN)など80年代から風俗をテーマにしたAVは存在していたのですが、風俗AVがブームになったのは、1994年から始まった『THE フーゾク』シリーズ(クリスタル映像)が火付け役でしょう。
 それまでの風俗AVが、バラエティ色の強い構成だったのに比べて『THE フーゾク』は、風俗のプレイをシンプルに撮影したもので、その生々しいリアルさが新鮮でした。淫語で男性客を責める性感マッサージをいち早く取り上げ、そのプレイのインパクトがあったこともシリーズの人気の理由でしょう。実は、ここで取り上げられた性感プレイが、その後にAVでの痴女プレイへとつながっていったのです。
 ちなみにこの『THE フーゾク』、監督と仲がよかったこともあり、僕が男優(客役)としてよく出演していました(笑)。この頃、AV男優のバイトもよくやってたんですよ。
『THE フーゾク』のヒットに続けとばかりに、他のメーカーからも風俗AVは次々と登場しました。
 これは、風俗嬢だとお店のPRになるという意味もあって、AV女優よりも安く出演してもらえるので、制作費が安く済むという理由もありました。お店のプレイルームで撮影すればスタジオ代もいらないですしね。
 雑誌の風俗記事や風俗嬢グラビアが急増したのも、同じような理由がありました。お店にとってはPRになる、媒体にとっては安く(時には無料で)ヌードを使える、というウィン・ウィンな関係がそこにあったのです。
 そんなわけで、雑誌やAVでも風俗を扱うことが多かったのですが、駆け出しのライターでもあった僕は、そうした恩恵を受けて、あちこちの雑誌で風俗記事を書きまくっていたのでした。
 またAV監督としても風俗AVを撮りはじめました。その後、AV監督の仕事を10年以上やることになるのですが、そのきっかけは風俗だったのです。考えてみると、風俗がずいぶん仕事の幅を広げてくれたのですね。

THEフーゾクパッケージ

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取材者 安田理央

1967年生まれ。フリーライター、アダルトメディア研究家。1987年よりアダルト関係の原稿を書き始める。主な著書に「痴女の誕生」「巨乳の誕生」「日本エロ本全史」(以上 太田出版)「AV女優、のち」(角川新書)など。「たちまち はだかの業界物語」(画:前川かずお 日本文芸社)では漫画原作も。

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